「何かAIを使ってほしい」と社員に伝えても、仕事が変わらない。
原因は意欲ではなく、どの作業を、どの範囲で試すのかが決まっていないことかもしれません。
最初から全社の仕事を整理する必要はありません。
担当者が普段行う作業を5件だけ書き出し、入力してよい情報、完成物、確認する人を見て、一つを選びましょう。
この記事では、小さな会社で生成AIの試行対象を決める業務棚卸しの方法を紹介します。
評価方法と事例は、本記事独自の提案・架空例です。
特定のAI商品の購入は前提にしていません。
「営業」「総務」ではなく、作業まで分ける
部署名や職種のままでは、AIへ何を頼むのか決めにくくなります。
「営業」なら、訪問前の公開情報整理、メール草稿、見積条件の確認、送信、受注判断などへ分けてください。
この中でも、公開資料からの説明案づくりと、顧客へ価格を約束する送信では、必要な確認が違います。
最初は業務全体の自動化ではなく、草稿を作るなど、終わりを区切れる作業を選びます。
最初の棚卸しは、この6項目で十分
各作業について、次を1行ずつ書きます。
- 作業名と頻度。
- 入力する情報と、その入手元。
- 出てきてほしい完成物。
- 完成物を確認する人。
- 間違えた場合の影響。
- いま使っている時間と、試すときの記録方法。
頻度や時間が分からなければ、最初は「未計測」で構いません。
推測を実測値のように扱うより、次に測る項目として残す方が判断に使えます。
入力欄に顧客情報や社外秘が含まれる場合は、利用を認められた環境と範囲を先に確認します。
確認できるまでは、その作業を試行対象に入れません。
5件を書き出して、一つへ絞る流れ
詳細条件は本文で確認する。
1.実際の5作業を挙げる
以下は、架空の従業員15人の設備会社を想定した例です。
効果を検証した事例ではありません。
- 週1回、公開済みサービス内容からSNS投稿案を作る。
- 商談後、社内で許可されたメモから確認メールの草稿を作る。
- 月1回、社内会議の決定事項を整理する。
- 取引先ごとの値引き条件を判断する。
- 人事評価と給与改定を決める。
どれも文章を扱いますが、同じようにAIへ任せてよいわけではありません。
重要なのは「AIでできそうか」だけでなく、使う情報と間違えた場合の影響です。
2.試さない仕事を先に分ける
社内ルール上入力できない情報を必要とする作業、正誤を判断する担当者がいない作業、誤りがそのまま外部の約束や重要な決定になる作業は、初回の試行から外します。
架空例なら、値引き条件の確定、人事評価、給与改定をAIへ決めさせるところから始めません。
利用目的と確認体制を別に検討する領域です。
外部への送信、発注、契約などの最終操作も、草稿作成とは切り離します。
「保留」は不要という意味ではありません。
先に利用環境や承認方法を整える必要がある、という区分です。
3.正解を確認しやすい作業を選ぶ
初回の候補は、入力が短く、完成物の形が決まっていて、担当者が元資料と照合できる作業です。
架空例では、公開済みのサービス説明からSNS投稿案を3案作る作業が候補になります。
公開情報だけで試せて、実際に提供していないサービスが追加されていないかを確認しやすいためです。
公開そのものは人が行います。
候補が二つあれば、次の三つをそれぞれ「はい・いいえ・未確認」で比べてください。
- 入力してよい情報がそろっているか。
- 人が完成物の正誤を確認できるか。
- 一回の試行で、どこからどこまで行うか決められるか。
これは本記事の簡易な選定基準で、成果を予測する客観的スコアではありません。
「未確認」が残るなら、先に確認してから選びます。
4.一回分を試し、手直しまで記録する
入力、生成、事実確認、修正、承認までを一回として記録します。
文章が出た時間だけを見て「短縮できた」と結論づけないでください。
試行記録の例は次のとおりです。
作業:公開済みサービス説明からSNS案を3案作成
入力:公開ページの承認済み説明文
完成物:投稿案3案。
公開はしない
確認者:サービス内容を判断できる担当者
測る範囲:準備から修正・承認まで
記録:追加された未確認情報、直した箇所、合計時間
次回判断:続ける/依頼文を直す/別の作業へ変更
速くても、確認できない誤りが増えたなら、そのまま拡大しないでください。
入力を短くする、完成物を限定する、別の作業にするなど、範囲を見直します。
記録表と比較の進め方は、生成AIの効果測定と記録表で詳しく説明しています。
入力情報の扱いに迷う場合は、試行前に中小企業のAI情報漏洩対策も確認してください。
AIには「採用判断」より、足りない情報を質問させる
棚卸しの整理にもAIを使うなら、次の依頼文を架空の作業で試せます。
社内の実データは許可範囲だけを使ってください。
以下の作業一覧について、「入力情報/完成物/確認者/間違いの影響/未確認事項」に整理してください。
作業の安全性や効果を断定せず、情報が足りない項目を質問として挙げてください。
利用禁止の情報を入力する方法や、最終送信・契約・人事判断を自動化する提案は不要です。
最終的な試行対象は人が選びます。
AIが「最適」と答えても、そのまま採用理由にしないことが大切です。
入力の可否と確認体制は、社内の責任者が判断します。
よくある迷い
毎日やらない仕事は候補にしない方がよい?
頻度だけで決める必要はありません。
ただし、初回は短い単位で試せて、担当者が結果を評価できる仕事の方が改善点を見つけやすくなります。
年1回の業務なら、試験用の過去例を使えるかも検討します。
棚卸ししたら、すぐ有料ツールを契約すべき?
先に入力情報、必要な機能、確認方法を決めてください。
その後で、利用規約やデータの扱いを含めて候補を比較します。
作業が決まらないまま契約数だけ増やしても、使い分けが難しくなります。
まとめ:5件を並べ、「試せる一つ」を決める
生成AIの業務棚卸しは、すべての仕事をAIへ置き換えるための作業ではありません。
入力してよい情報と、人が確認できる完成物を見つけるための準備です。
今日は5件だけ書き出し、試さない仕事を分け、一回分の範囲を決めてみてください。
実施後は、手直しと承認まで含めて次の判断へつなげましょう。
社内基準を検討する際の参考
- 経済産業省:AI事業者ガイドライン第1.2版の資料案内:社内のAI利用基準を検討する際の追加参考です。本記事の簡易選定基準を、同資料の指定評価方法として扱うものではありません。