「業務のやり方が担当者の頭の中にしかない」「新人に同じ説明を何度もしている」。
そんなとき、生成AIは社内マニュアルの下書き作成に役立ちます。
ただし、AIは自社の手順を知りません。
完成版を丸投げするのではなく、現場で確認した事実を整理し、AIで読みやすくし、担当者が検証する順番が大切です。
この記事では、中小企業が小さく始めるための3ステップ、コピーして使えるプロンプト、公開前の確認項目を紹介します。
生成AIをこれから使う場合は、先に生成AI導入の始め方5ステップも確認してください。
具体的な操作、適用条件、例外、注意事項は各見出しも確認してください。
結論:最初の1本は「短く、低リスクで、実際に試せる業務」から
最初から全社共通の分厚いマニュアルを作る必要はありません。
例えば「来客前の会議室準備」のように、担当者と作業の始まり・終わりが明確な業務を1つ選びます。
給与計算、契約判断、安全に関わる作業など、間違いの影響が大きい業務は初回の題材にしない方が無難です。
進め方は次の3つです。
- 現場の手順を担当者から集め、事実を確定する
- 生成AIに構成と文章の下書きを作らせる
- 担当者と初見の人が試し、修正・更新担当を決める
ステップ1:AIに入力する前に、現場の事実を集める
まず業務の責任者に、作業の目的、対象者、開始条件、必要なもの、手順、完了の判断基準、例外時の連絡先を箇条書きで聞きます。
口頭説明だけでなく、実際の作業を見て「暗黙の一手」を拾うのがポイントです。
例えば次のようなメモを用意します。
これは説明用の架空例であり、そのまま自社の手順として使うものではありません。
業務:来客前の会議室準備/担当:総務/開始:来客の30分前/確認済みの作業:予約表で部屋を確認、人数に合わせて椅子を用意、画面表示をテスト/終了:予約した会議室に必要な椅子がそろい、画面表示のテストが完了/未確認:機器が動かないときの連絡先
実名、顧客情報、社内の機密情報を含むメモを、利用許可のないAIサービスにそのまま貼り付けないでください。
会社の利用ルール、サービスのデータの扱い、入力設定を確認し、必要なら匿名化・要約した情報だけを使います。
IPAのDXリテラシー教材でも、入力情報の扱いと出力の事実確認が注意点として挙げられています。
不足情報を洗い出すプロンプト
あなたは社内マニュアルの編集担当です。
以下は業務担当者が確認したメモです。
マニュアルを書く前に、手順の抜け、判断基準、例外対応について担当者へ確認すべき質問を最大10個挙げてください。
メモにない事実を推測して補わないでください。
【対象者】新しくこの業務を担当する社員
【確認済みメモ】(ここに機密情報を除いた箇条書きを貼る)
AIの質問を見て、担当者が回答を追記します。
回答できない項目は無理に埋めず、未確認として残します。
ステップ2:確認済みメモだけで下書きを作る
材料がそろったら、AIには「読みやすい形への編集」を頼みます。
目的や読者、出力形式を明示すると、後から人が直しやすくなります。
社内マニュアルの下書き用プロンプト
あなたは中小企業の社内マニュアル編集担当です。
下の確認済みメモだけを根拠に、新任担当者向けの短いマニュアルを作成してください。
【構成】1. 目的・対象者 2. 作業前に用意するもの 3. 番号付き手順 4. 完了チェック 5. 例外時の対応 6. 更新情報
【書き方】一つの番号に一つの動作を書く。
主語・条件・判断基準を明確にする。
メモにない操作、数値、連絡先は追加しない。
不足箇所は「[要確認]」と記す。
【確認済みメモ】(担当者が確認した内容を貼る)
出力をそのまま採用しないでください。
架空例なら「機器が動かない場合の連絡先」は[要確認]のままになるはずです。
AIが勝手に「情報システム部へ連絡」と書いたら、元メモにないため削除します。
メール文を整えるときのプロンプト例は、生成AIでビジネスメールを作る方法でも紹介しています。
マニュアルでは特に、自然な文章よりも「現場の事実と一致すること」を優先してください。
下書きの完成イメージ:来客前の会議室準備(架空例)
上の確認済みメモを短い手順書にすると、次の形になります。
未確認事項が残るため、これは配布前の下書きです。
実際の部署・設備・安全な操作方法は業務担当者が確認してください。
| 項目 | 手順書の記入例 |
|---|---|
| 目的・対象者 | 来客前に会議室を準備する。対象は総務の新任担当者 |
| 開始条件・用意するもの | 来客の30分前に開始。予約表、椅子、画面表示用の機器(機種・操作手順は[要確認]) |
| 番号付き手順 | 1. 予約表で使用する部屋を確認する 2. 予約人数に合わせて椅子を用意する 3. 画面表示をテストする(接続・操作方法は[要確認]) |
| 完了チェック | 予約した部屋で、必要人数分の椅子がそろい、画面表示のテストが完了している |
| 例外時の対応 | 機器が動かない場合の連絡先・代替手順は[要確認]。担当者への確認が終わるまで推測した操作は行わない |
| 更新情報 | 管理担当者:[要確認]/版:下書きv0.1/確認日:[記入]/見直し:設備・予約方法の変更時 |
「利用後の片付け」まで含めるなら題名と範囲を変更し、別の手順も確認します。
今回は来客前の準備に限定するため、完了条件も来客前でそろえています。
| AIが補った記述の例 | 直し方 |
|---|---|
| 「不具合は情報システム部へ電話する」 | 元メモに部署・連絡手段がないので削除し、「連絡先[要確認]」に戻す |
| 「HDMIケーブルを接続する」 | 接続方式が未確認なので採用しない。実機確認後に正しい手順・画面写真を追記する |
ステップ3:人が手順を試し、更新できる状態にする
下書きができたら、まず業務担当者が原メモと1行ずつ照合します。
次に、その業務に詳しくない社員がマニュアルだけを見て、テスト環境で作業できるか試します。
迷った箇所は説明するだけで終わらせず、本文を書き直します。
照合を補助するプロンプト
次の「確認済みメモ」と「マニュアル案」を比較してください。
メモに根拠がない記述、抜けている手順、曖昧な表現、順序の不整合を表にしてください。
正しい手順を推測して補わないでください。
最終判断は人が行います。
【確認済みメモ】(貼る)
【マニュアル案】(貼る)
この照合もAI任せにはできません。
現場の担当者が実作業と一致するかを最終確認します。
また、文書の冒頭か末尾に「管理担当者」「最終更新日」「次回の見直し時期」を記載しましょう。
手順が変わったときに古い版が残らないよう、保管先と更新方法も決めます。
初見テストと改訂の記録欄
例えば新任担当者が「画面表示をテストする」で止まったら、口頭説明だけで済ませず、実機で確認した接続手順を追記します。
[要確認]が残る操作は、確認前に新任担当者だけで実行させないでください。
| 記録する項目 | 記入欄 |
|---|---|
| テスト日・担当者 | [日付/実施者/業務の確認者] |
| 迷った手順と理由 | [番号/分からなかった操作や判断基準] |
| 修正内容・根拠 | [追記した手順/実機・担当者による確認内容] |
| 再テスト・承認 | [初見の人が完了できたか/確認者/日付] |
| 最新版の管理 | [版番号/保管先/旧版の扱い/次回見直し条件] |
公開・共有前のチェックリスト
- 業務担当者が全手順を確認したか
- 「誰が・いつ・何をするか」が明確か
- 1つの手順に複数の動作を詰め込んでいないか
- 必要な備品、開始条件、完了基準が書かれているか
- 例外時の連絡先や判断者を確認したか
- AIが補った根拠のない数値・操作・ルールが残っていないか
- 画面写真を使う場合、最新版で個人情報や機密が写っていないか
- 初めて読む人が実際に試し、迷った箇所を直したか
- 管理担当者と更新日を記載したか
よくある質問
既存の社内資料を丸ごとAIに入れてもいい?
会社が許可したサービス・利用方法か、資料に個人情報や機密情報が含まれるかを先に確認してください。
必要な部分だけを抜き出し、匿名化する方法もあります。
個人情報については個人情報保護委員会の注意喚起も参照してください。
AIが作った文章はどこまで直すべき?
読みやすさだけでなく、現場の手順と一致するまで直します。
特に例外対応や判断基準は、AIが自然に見える文章を補ってしまうことがあります。
根拠を確認できない記述は[要確認]に戻してください。
最初のマニュアルは何ページがいい?
ページ数よりも、1つの業務を迷わず終えられるかで決めます。
最初は短い業務を1件選び、実際に使って不足が出たら追記する方が進めやすいでしょう。
まとめ
生成AIは社内マニュアルの「編集者」として使うのが基本です。
現場の事実を集める、AIで下書きを作る、人が試して直す。
この3ステップで、属人化した業務を少しずつ共有できる形にしていきましょう。
まずは低リスクな業務を1つ選び、担当者への質問から始めてみてください。